*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
灯はぼんやりと窓を見上げる。




細かい格子が嵌め込まれた向こうに、深藍の夜空と白っぽい月が浮かんでいた。






暇なので、今日あったことを思い返してみる。





宿屋の屋根で藤波と二人、京の町を見下ろしたのが、はるか昔のことのように思えた。






(………長い一日だったな………)






知らず、溜め息が洩れた。






(あいつを攫うくらい、たいして手間もかからないはずだったのに………。



当の本人が余計なことをしたせいで、信じられないほど事態がこじれてしまった………)







汀に振り回され、挙句の果てにこんな所にいる自分を思うと。





呆れるどころか、もはや笑えてきてしまう。








(つくづくあいつは、俺の疫病神だなーーー)







そうしてまた一つ、溜め息が月に吸われていった。








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