*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
きょろきょろしながら内裏の中を歩き回る汀を見た人々は。




本日入内した『栄耀殿の女御』が、まさか目の前をほっつき歩いているとは思うはずもなく。



どこの女房かと訝しみながらも、何も言わずに見て見ぬ振りをしていた。






その時、露草が空の陰ってきたのに気がつき、汀を呼び止めた。






「………姫さま。


探検もよろしいですが、そろそろお戻りになりませんと。


夕餉を食べそこねておしまいになりますわよ」






それを聞いた汀が大袈裟に目を丸くする。






「まぁ、たいへん!


それはいけないわ。


内裏ではいったいどんなお食事が出るのか、というのが一番の楽しみなのだから!」






そんな畏れ多いことを言いながら、汀は速足で栄耀殿へと戻った。










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