*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「………ところで、姫さま」







気を取り直した露草は、六の君の顔を上目遣いに見上げながら、口を開く。








「なあに?」







「一つだけ、お訊きしたいことがございますのですが………」







「あら、何かしら」








六の君がにっこりと露草に笑いかける。



その優し気な微笑みに勇気づけられ、露草は意を決して訊ねる。








「あの、その、………。


蘇芳丸、という呼び名は、一体なんなのですか」







「え?」








六の君が目を丸くする。








「あの………。

なぜ、あの者のことを、蘇芳丸、などとお呼びになっていらっしゃるのかと、不思議に思いまして……」








それを聞いて、六の君が得心したように「あぁ、そのことね」と破顔した。








「………じゃあ、露草にだけは特別に、私の秘密を教えてあげるわ」








悪戯っぽい瞳で、そう笑いかける。





秘密の薫りに、露草は微かに興奮したように頬を薄紅色に染めながら、こくこくと頷いた。








「あのね、実はね………」







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