*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「なんだ………申してみよ」





春宮は咳払いをして、威儀を正すように畳の上に座った。




汀はするすると後退りをして、露草の背後に身を隠す。






ぴんと背筋を伸ばして正座した露草は、真っ直ぐに春宮を見据えた。







「…………春宮さま。


姫さまは本日お加減が悪いので、お召しはお許しいただきたいと、人をやったはずでございます。



ですのに、このように姫さまのもとていらっしゃるとは………なぜでございますか」






すると春宮は大仰に眉を上げた。






「確かにそのような言伝(ことづて)は届いたが………。



しかし私は待ちきれなかったのだよ。


最愛の姫がとうとう私のもとへと入内したというのに、そんな夜に独り寝などあまりに虚しいではないか。



だから私は我慢ならずに、ここまで来てしまったのだよ。



全ては私の強い想いが為せる業なのだ。


分かってくれるだろう、姫よ………」







汀は否定するようにぶんぶんと首を横に振ってみせたが、春宮には伝わらなかった。







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