*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
建物の陰から陰へ、まっすぐに内裏の方へ駆けていくと。





左手の方に、鬱蒼とした松林が見えてきた。



最初に気がついたのは、糸萩だった。






「………なんだろ、あれ。


大内裏の中に、林………?」






松林のほうに目を向けて首を傾げる糸萩に、情報通の黒松が答える。






「あぁ、あれは多分、宴の松原(えんのまつばら)というやつだろう」





「ーーー宴の松原?」







耳慣れない言葉に、卯花と楪葉も興味を引かれたように近寄ってきた。




そんな三人にちらりと目を向け、黒松が口をひらく。






「俺も噂でしか知らないが………。


なんでも、宴の松原には人喰い鬼が住んでいる、と言われてるらしい」








「ええっ、人喰い鬼!?」







糸萩が大きく目を見開いた。




黒松は松林の方を見ながら、都の人々の間でまことしやかに噂されている話を、小声で語りはじめた。










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