*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語







白縫党の面々が、着々と内裏に近づいている頃。




内裏の中での大騒動は、まだまだおさまる気配がなかった。





噂にどんどん尾ひれがついていき、話が瞬く間に膨らんでいったのである。




犬の鳴き声が、宮中に紛れ込んだ野性の狼の鳴き声に。



男女の叫び声が、世にも恐ろしげな妖(あやかし)のごとき断末魔の声に。



さらには、先の帝の時代にあらぬ疑いをかけられて流刑に処せられ、遥かな地で不遇の死を遂げた公卿の死霊が出たなどという話まで出てきた。





狼だの妖だの、死霊だのと聞けば、女たちは怯えて右往左往する。



男たちは持てる限りの武器を手に、内裏中を走りまわった。






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