*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「………なんだか騒がしいわねぇ」





露草の背後に隠れて春宮と対峙していた汀が、外の騒ぎに気づいて首を傾げた。




春宮も、青丹丸を警戒するように視界の端にとらえておきながら、御簾の外へと顔をかたむける。





「こんな時間に、やけに人が多いようだな………」





そう言って溜め息をつくと、春宮はゆっくりと立ち上がる。






「我が最愛の妻よ。


こんなところでは、せっかくの初夜も落ち着かぬであろう。



私の寝所へ参れ。


あそこならば下賤の官吏など入って来れぬから静かだ。


邪魔だてする者はないから、安心して夜を過ごせるぞ」






嬉しそうに笑って浮き浮きと汀の手をとろうとする春宮を、汀と露草は黙って見上げることしかできない。








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