*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
抵抗する術もなく連れ去られていく汀を、露草が追いかける。




「ひっ、姫さま!!」



「つゆくさ~~っ!!」




汀が悲壮な声を上げ、露草のほうへと手を伸ばす。



しかし露草は、いくらなんでも皇太子殿下の袖を引くなどといった大それたことをする気にはなれず、どうすればよいか分からずにおろおろしていた。




「あおにまろ~~っ!!」



「きゃいんきゃいん!!」




青丹丸も春宮が抱える筥の中で悲しげに鳴くことしかできない。






(………あぁっ、もうだめだわ!!


私はこのまま、春宮さまの好きなようにされてしまうしかないの!?)





両手の袖で口許を覆って夜空を仰いだ汀の瞳に、目映い月が映り込んだ。








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