*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
露草は口を半開きにして呆然としているが、六の君は頬に手を当てて、うっとりとした表情で語る。








「………あぁ、懐かしいわぁ。


子犬の蘇芳丸。



丸くて小さくてころころしていて、いつも小鞠のように跳ね回っていたわ。



はじめはなかなか懐かなくってね。


私が近づこうとするとすぐに逃げちゃって。


竹藪の奥から、尻尾を丸めて警戒して唸るの。


無理に近づくと噛み付くし。



ずいぶん苦労したのよ。




でも、根気強く餌付けしてやって、やっとのことで近づいてくれるようになって。



しばらくしたらね。


私が竹藪に行くと、ふんふん鼻を鳴らしながら出てきて、遊んで遊んで、ってまとわりつくようになったの」









「………はぁ、なるほど。


それは可愛いらしゅうございますね……」









「でしょう?」










六の君が自慢気に、弾けるような笑顔で笑った。






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