*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
しかし次にはもう、眉根を寄せて切なそうな表情に変わる。









「………だからね。


本当に、悲しかったのよ。


蘇芳丸がある日突然いなくなってしまった時には………。



あんなに可愛がったのに、挨拶のひとつもなく出て行くなんて、ほんとに傷ついたものだわ」








「まぁ、それはそれは、なんておいたわしい………」









六の君の言葉にいちいち相槌をうちながらも、露草は戸惑いを隠せない。









(………姫さまって、やっぱり、どこか不思議な御方だわ。


なぜ、あの不気味な赤髪の男に、可愛がっていらした犬の名前など、おつけになったのだろう………?)









正直なところ、露草には、全く解せなかった。







< 53 / 650 >

この作品をシェア

pagetop