*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「あのとき、子犬の蘇芳丸と素っ気ない別れになってしまったこと、私ずっと後悔していたの。



もっとちゃんと遊んであげればよかった。


もっとおいしいものを食べさせてあげればよかった。




そうしたら、蘇芳丸は私に何も言わずに消えちゃうなんて薄情なこと、しなかったでしょうに………」










六の君は、たいそう嘆かわしい、といった声音で呟いた。




そして、塗籠の方に目を向ける。









「だからね………」









その声には、深い思いやりが滲んでいた。







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