*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「今度は、あの蘇芳丸に、ちゃんとお世話をしてあげたいのよ。



それが、子犬の蘇芳丸への罪滅ぼしにもなるんじゃないかしら、と思うの」









「………はぁ」









露草は気の抜けた相づちを洩らしたあと、急に思い出したように手を打った。









「……あ。わたくし、膳を下げて参りますね」








「あら、そう?


ありがとう、じゃぁ、頼んだわね」









そう言うと、六の君はまたいそいそと塗籠の中へと戻っていった。





あらかた空になった食事の器を載せた高坏を持って、台盤所へと向かいながら、露草は首を捻る。









(―――姫さまは、やはり変わった御方だわ………。


あのような怪体な男を、夢中になってお世話なさって。



なんというか、小さな生き物の虜になる、無垢な少女のような………)









でも、と、露草の唇に、薄く笑みが浮かんだ。




そんな、どこかずれたような不可思議なところさえも、露草には魅力的に思えるのだった。






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