*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
塗籠に入ろうとしたら、青年が横向きになって動かなかったので、寝ているのだろうと思って六の君は母屋に引き返す。





露草が行ってしまったので、六の君は手持ち無沙汰になった。




塗籠の方を再びちらりと見てみると、やはり青年は眠っているようだ。








(………あぁ、暇だわ。


蘇芳丸と遊びたいけど、寝ているのに邪魔しちゃだめよね………)








溜め息をこらえきれない六の君は、持て余した時間をつぶそうと、まったく意味のないことをしはじめた。






御簾を半分だけ下げてみたり。



几帳を動かして、たわむれに三角形の空間を作って、その中に入ってみたり。



蒔絵で飾られた小箱に入れている手紙の類を整理してみたり。



双六の駒を取り出して、じゃらじゃらとかき混ぜてみたり。



文台の上に書き散らされていた手習いの薄様(うすよう)を重ねて灯に透かし、色合いを試してみたり。



二階棚の上に載っている火取香炉の残り香を嗅いでみたり、鏡筥(かがみばこ)と硯筥の位置を入れ替えてみたり。









(………あぁ、だめ。


やっぱり、暇だわ)








六の君は円座(わろうだ)にとすんと腰を下ろし、大きな溜め息をついて脇息にもたれかかった。







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