*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
兼親は、ゆったりとした足取りで御帳台に近づき、帳の前の畳に腰を下ろした。








「六の君よ、久々だな。


しばらく多用で、なかなか顔を見に参れなかった。

すまぬな。


達者であったか」








六の君は奥ゆかしく膝で床を進み、さらに帳の奥深くに移動した。








(お化粧をしていないのがばれたら大変だわ………)








広げた桧扇と袿の袖の陰に顔を隠すようにして、小さく囁くような声で答える。








「………お久しゅうございます、父上。


わたくしは日々なにごともなく、穏やかに過ごしておりますわ。


それも父上のおかげにございます。

ありがとうぞんじます」








貴族の姫君として相応しい、小鳥の囀りのような声音と、たおやかな物言い。




兼親は満足気に頷いた。






< 59 / 650 >

この作品をシェア

pagetop