*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
再び人目を忍びつつ、邸内を移動する。




時折、離れた所で物音や人声がすると、灯が聞きつけて汀を制止した。





「ふふふ、はらはらするわねぇ!」





呑気に笑っている汀を、灯が呆れたように無言で見返した。






すると、次の瞬間、汀の目が大きく見開かれる。





その視線は、はるか向こうにいる男童二人に向けられていた。





遠いのでよく見えないが、こちらに気づく様子もなく庭を横切っていく。






「………大丈夫だ。


あちらからは樹が邪魔でこっちは見えないはずだ」






灯が安心させるように言うが、汀は聞いていない。





「ちょっとこれ持ってて」





自分が持っていた包みを、灯が両手に抱えている荷物の上に放ると、止める間もなく汀は走り出した。






「あっ、お前………っ!!」






灯が慌てて手を伸ばしたが、届く寸前に汀はすり抜けて行ってしまった。








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