*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
命の恩人で、しかも口もきけないほど高貴な姫君であるはずの汀を叩くなんて………と、童たちはぽかんとした顔で長身の灯を見上げる。






汀は叩かれたところを両手で押さえて「いたーい」と唇を尖らせた。




しかしそんな表情をしてみせたところで、灯の怒りが治まるはずもない。







「…………お前、何を考えてるんだ。


俺は言ったよな? 勝手に動くなと………」






「あっ、そうだったわ!


ごめんなさい、すっかり忘れてた」






「お前なぁ!!


すっかり忘れてた、なんてことでまた捕まって、あの変態に嫁ぐことになってもいいのか!?」






「まぁ、まぁ、落ち着いて、蘇芳丸。


いいじゃないの、結果的には捕まらなかったんだから」






のほほんと笑う汀に、灯はぐったりと脱力した。




そんな灯を尻目に、汀は童たちに向き直る。







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