*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
初めに灯が侵入し、汀の祖父母が奥にいることを確かめた。




一番遠い垣根の隙間から敷地内に入り、母親の寝所へ向かう。





灯はくんくんと鼻を動かし、汀に分からないように眉を顰めた。






(………あまり良くないな)






心の内で独りごち、溜め息をついて荷物を抱え直した。






汀の案内で、母の部屋にひっそりと入る。





「…………お母さま?」





汀が静かに声をかけたが、返事はなかった。






母屋の中には姿が見えなかった。




汀は首を巡らして、帳台の方へと近づく。






「お母さま、こちらへいらっしゃるの?」





帳を開くと、薄暗い中にうち伏して眠っている人影があった。






それを確認して、汀は息を呑む。








(………まぁ!



お母さまーーーなんてこと…………)







母の姿は、汀の記憶の中にあったそれとは、驚くほど変わってしまっていた。








< 613 / 650 >

この作品をシェア

pagetop