*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ーーーん………」






小さな呻きが乾いた唇から洩れて、痩せた瞼がゆっくりと上がる。







「……………お母さま」







汀は息を呑んで小さく呟いた。





虚ろな瞳がぼんやりと彷徨い、傍らの青い瞳の上にとまる。






「…………あら」






掠れてはいるものの懐かしい声を聞き、汀は目を細めた。






「…………お母さま。



私ですーーー汀です」







嬉しそうに微笑む汀の顔を、帳の向こうから灯がじっと見つめている。






夜着の中に横たわったまま汀を見つめていた母が、ゆっくりと口角を上げた。







「…………あら、まぁ。



あなた………なんて、きれいな瞳を、しているの………。



まるで、小春日和の空のようね………」








< 615 / 650 >

この作品をシェア

pagetop