*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
それを聞き、露草は控えめに首を横に振る。





「いいえ、問題はございませんでしょう。


今晩、お父君は、柊の大将殿の宴にいらっしゃっておりますから………」




「ああ、そうだったわね」





六の君は思い出したような表情をする。






「お父君がお帰りの頃には、わたくしが格子も御簾もお下げしておきますわ」





「ありがとう。


頼んだわよ、露草」






悪戯っ子のように笑う表情までも、こんなにも艶やかでお美しい、と露草は惚れ惚れする。




六の君は笑みを浮かべたまま再び月に向き直った。




満月の明るい光の中、そのたおやかな影がくっきりと濃く、床に染め抜かれている。





「………姫さま。


そのような端近にお座りあそばして、寒うはございませぬか」





露草が憂わしい情を滲ませた声で訊ねた。





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