*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
普段は化粧を施すことも好まず、眉も抜かず、髪に椿油を塗ることもしない。



時に父の右大臣とお会いになる場合だけ、簡単に身支度を整えるばかりだ。




このような常軌を逸した振る舞いは、その生い立ちに原因があるのだろう。




しかし、それでもやはり、六の君はたいそう美しかった。





肌は触れたら吸いつきそうにしっとりと肌理細かく、宝玉のような相貌も首筋も、白粉を刷かずとも透けるように白い。



月明かりを受けて、その光を身内に蓄えているかのように、暗がりの中でも仄明るく輝くようだった。





その白皙の中で、ふくりとした唇だけが、素のままでも紅を載せたかのような薄紅梅色をしている。




全ての眉を抜いて、分厚く塗った白粉の上に眉墨を太くのせる他の姫君たちとは異なり、自然のままに生い茂る眉。



それでもきれいな弓形をしており、下手に描かれたものよりずっと美しい、と露草は思う。





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