華の欠片


「椿.....?

どうした?」


零れた墨を拭いていた私が声のする方へ

首を向けると先程帰ってきたらしい斎藤

が立っていた。



「あ......

おかえり、斎藤。」


「ただいま.....

それは.....どうした?」



っ.......やっぱり聞かれた。

斎藤が帰ってきた事はとても嬉しいがそ

の前にこの状況とあの書類をなんと

かしなければならない。


「すまん.....すぐに片づける。」



「いや、手伝う。

それより大丈夫か?顔色が優れない様だ

が。」



「いや、斎藤の手を汚す訳にはいかない

、私がやる。

斎藤も任務で疲れただろう。

休んでろ。

あと、私の体調は万全だ。」


私は嘘をついてしまった。

本当は万全なんかじゃない。

今朝から体が重いし、とてもダルい。

でもここで体調が悪いだの言ったら先程

帰ったばかりの斎藤に迷惑をかけてしま

う。


特に斎藤には迷惑を掛けたくないと思っ

てしまうのは私の気の迷いだろうか.....?


そう思いながら私は手早く手を動かし、

机の上の墨を拭き取り井戸の方へ向かお

うとした。


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