桜の雨が降るとき
ラッキー、と私は全く焦らず動かないでいたのだが、



「……あのー、ちょっと……」



という声が後ろから聞こえてきた。



「はい?」



と私は素っ頓狂な声をあげて振り向いた。
すると、そこには、


さっき翠との話題の中心にいた「彼」が立っている。



「えっと……、何か?」



転校生が私に何の用だろう。
席がわからないのなら他に聞いてほしい。
こっちは名前さえ知らないのだから、出席番号や席すらわかるはずがない。


しかし、彼の用は私の頭の片隅にもない思いがけないものだった。



「そこ、俺の席なんだけど……」


「え?」


「だから、そこ……。俺、出席番号1番だから」


「あ……」



私は急いで名簿を取り出し、今度こそちゃんと見る。


朝井芽衣、という名前の上に、『相内奏人』という名前が載っていた。



「あっ、ごめん!朝色々あって名簿ちゃんと見てなくて、それでてっきり今年も1番だと思って……」


「いや、そんな謝らなくていいけど……」



相内奏人はそう言いながら私が座っていた席に着いた。


私はその横の、先刻まで翠が座っていた席に着く。
ということは、私と彼は隣同士のようだ。


なんとなく気まずい空気が流れてしまったが、彼はそれを気にせず配られたしおりを読んでいる。


私もそれに倣ってしおりを読み始めたが、



「……」



どうしても隣が気になって、チラチラとその横顔を盗み見てしまう。
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