電車で遭遇した場合。



電車に乗ると、電車の進行方向とは逆を向いて端に寄りかかる。



―――いた。


彼女は今日も椅子に座って、参考書を読んでいた。


くせっ毛なのだろうか、緩やかに波打つ長い黒髪は横に一つに束ねられている。


流している前髪は、彼女をより大人びてみせるアクセントとなっているだろう。


大きな一重は、見つめられたら吸い込まれてしまいそうだ。



『おい、そんな見てないで話しかけろよ。』


………でた。
この声は、俺の頭の中に住み着いているらしい、悪魔の声だ。


そんな話かけるなんて無理だろ。
ナンパと勘違いされるだろうし。
そんな軽い男じゃないんだ、俺は。


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