電車で遭遇した場合。


これは、俺がヘタレを卒業するチャンスじゃないのか!?


だよな、だよな!


よし。


俺は付箋を拾おうと身を屈めようとした時――――――。


「はい、お姉ちゃん、これ落ちたよ。」



なんと、5歳くらいの少年が俺の拾おうとした付箋を。

付箋を拾って、笑顔で彼女に手渡していた。



『お前…遅すぎ。』


呆れた悪魔の声。
今回ばかりは俺も反抗できない。


「あ、ありがとう。」


そう言って彼女は優しく微笑んだ。



悔しい。
あと少しで、あの笑顔が俺に向けられていたはずなのに。


…ちびっこではなく、俺自身に失望した。


そんな様子を気にすることなく、ちびっこは母親の元へ駆け寄って行った。


きっと。
あんな純粋な子だからこそ出来るのだろう。


ただ、拾ってあげよう…という良心があるちびっこだからこそ。



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