復讐を考える者と呪われた者と。
「おはようございます!神咲さん!」
「お、はよー...」
何人目だろう.....。
まだ教室にも辿り着いてないのに、代わる代わる挨拶をされる。
中には見たこともない、多分他クラスの生徒だろう。
一体どういうことだ?
今って挨拶をいっぱいしましょう週間とかか?
にしてもやたら男子生徒ばかりなような気が.......。
「おはよう!神咲さん」
「おあよ......」
あぁ、なんかもういい加減舌が回らなくなりそう....噛みそうだ.....。
もう次からは省略して「おっはー」でいいだろうか?
さすがに古いだろうか......?
「なぁ、怜愛。今日って、挨拶をしましょう週間なのかな?まさか!?もしかしておれが男だってバレて噂になってるとか!?」
後ろに居た怜愛に聞けば、一度逡巡するように視線を巡らせてからニッコリと笑った。
「バレたって可能性は無さそうですね。まぁ、挨拶週間かはわかりませんが、せっかくですからせつらさまもしっかり笑顔で、たーっぷり愛想振りまきながら挨拶をして行きましょうね!」
「あー.......うん?」
なんでたかが挨拶で
愛想振りまく必要があるんだ?
それもたーっぷり?
何だか腑に落ちない感はあるが、気にしないことにする。気にするとキリがないし。
「ふふ、せつらさまったらほんとーに鈍ちん。普通の娘ならこれだけ噂になってれば嫌でも気づくんですけどねー。ほんと、自分のことには鈍いんだから。ま、そこがせつらさまの可愛いとこであり、いじめ.....おっと、弄りがいのあるとこですけど!うふふ」
怜愛は周りを見て満足そうに笑った。
周りでは男子生徒がせつらを見ては小声で囁き頬を赤らめている。
入学後日、
男子生徒の間で、せつらは「謎の美少女」だと噂になっていた。
その噂と実物の評判は波の様に学校内に広がり、声をかけようかかけまいかと躊躇する少年たちの、思春期のヘタレハートも、一週間経ちようやくキッカケを掴んだらしく、挨拶はそのアプローチというとこだろうか。
それにしてはまだヌルい。
手ヌルすぎる。
そこが少年独特のウブさなのだろうか。
熱い視線は変わらず。
そんな、噂も視線にも気づかないでいるのは当の本人のみ。
本人は、その愛らしさには至って鈍感で無自覚なのだ。挙句、男であったのは過去なのに、女であることを忘れがちなのだ。気さくで男女関係ない、容姿とは裏腹にやることが少々粗野な面も、
逆に周りにはある種の魅力だったりするのだろうか。
まぁ、従者としては、主が人気ものになるのは誇らしいことこの上ない。ただ、もう少し、ほんの少しでいい、自分の容姿に頓着して欲しいものである。
「ホントー鈍ちん。ふぅ」
「なんか言ったー?怜愛ー」
振り返るせつらに目を細めて、いいえ、と頭を振った。