サヨナラのしずく
それでも来てくれて、顔を見ただけで安心したんだ。



それなのに、泣いて震えているあたしを今の俊平みたいに抱き締めてくれることはなかった。




あの人はお葬式でも女優だった。



カメラが回っていないのに、泣いているのも何もかもあたしには演技に見えたんだ。





「お葬式が終わると、すぐに仕事に戻っていった。片付けも全部事務所の人に任せたんだよ」




最低だと思った。



だけど、お祖母ちゃんがいなくなってあたしにはあの人しかいなかった。



「あたしに何の一言もかけなかった」




悲しくなんかないのに涙が流れてきた。



これはムカつきすぎて流れてきてるんだ。




「あの人の中にはあたしは存在しないんだよ」





きっとあの人はあたしを産んだことを後悔している。






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