サヨナラのしずく
しばらくはどう受け止めていいかわからなかった。



信じられなかったし、実感もなかった。



だからすぐには会いにいかなかった。



それに小笠原ゆきは、母親は、あたしに会いたいと思っていないと思った。



母親の人生にあたしの存在はないと思っていた。



それなのに、母親から食事に誘われた。



一緒に食事をするのは何年ぶりだっただろうか?




もう思い出せないくらい何年も一緒に食事すらしていなかった。



久しぶりに会った母親は、痩せほそっていて体調が良くないのはすぐにわかった。



それなのに、あたしが癌のこと知っていると知らない母親は綺麗に化粧をして必死に隠そうとしていた。





最後まで病気のことは口にせず、元気な姿を演じきった。




そして、最後に“あなたを産んだのがあたしなんかでごめんね”って言ったんだ。




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