サヨナラのしずく
「よし、これで大丈夫だろ」




男は丁寧に傷口を消毒して血のあとをおしぼりで拭いてくれた。




「ありがとう」


「ああ、もう喧嘩してるとこに近づくんじゃねぇぞ」


「うん」




こうやって誰かに傷口を手当てしてもらったのって何年ぶりだろう?




「お前ほんと分かってんのか?」



床に膝をついたまま男はあたしを除きこんで聞いてきた。




「うん、分かってる」


「あの時俺が背中押さなきゃお前ナイフで切りつけられてたかもしれねぇんだぞ」




押された時は気づかなかったけど、後からなんとなくそんなことだろうと思っていた。



当たったとかじゃなくて、あたしを助けるために誰かが背中をわざと押したんだって分かってた。



そして、その誰かがこの人だってなんとなく気づいていた。





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