溺愛王子とヒミツな同居
「こんな時間に悪いな。懐かしくて散歩してたらさ、ヒロん家の隣がまりやの家だってこと思い出して」
1階に下りかけたところで足が止まる。
耳に聞こえてきたのは、奴の声だった。
「そ、そう……なんだ……」
「いきなり来て困った顔だね。それもそうか。
俺は元々まりやに嫌われてたしね」
「そんなこと、ないけど……」
話しかけられるたびに、小さく肩を震わせるまりやの顔を覗き込んだのは、祥吾だ。
俺の嫌な予感は、見事に的中。
階段の死角になった場所で、頭を壁に預け思わず溜め息をつく。
何しに来たんだよ、祥吾の奴。
光の時同様に助けに行けないこの状況に、軽く苛立ちを覚える。
「そう? クラスは隣だけど、まりやは他の女の子と違って俺とはあんまり話さないじゃん?
だから、まだ昔のこと怒ってるのかと思って気にしてたんだよ、これでも」
「え?」
そんなことを突然訪ねてきて言われると思ってなかったまりやは、どう答えようかと一瞬迷った表情を見せる。
「まぁ、急に仲良くは無理でもさ……とりあえずこの見えない距離感は埋めたいと思うんだよね。
俺も子供じゃないし、いくら何でもあんな意地悪はもうしないよ」
そんな言葉を並べたところで、はい、そうですかって答える奴がいるはずがない。
当然まりやが信じるはずもなく、目線を逸らしつつ疑いの眼差しで祥吾を見ている。