溺愛王子とヒミツな同居
キュッと唇を固く引き結ぶと、勢いよく顔をあげて俺を見た。
「最後にそんな優しい顔見せるなんて反則すぎっ。ヒロ兄よりもすんごいイイ男見つけて、いつか絶対に自慢しにきてやるんだから!
私を振ったこと後悔しても知らないんだからね!?
……まりやさん、今日は邪魔してごめんなさい。あたし、ずっとまりやさんに会ってみたかったの。
どんな人なのか、ずっと気になってた。でも、完全にあたしの負けだよ。ヒロ兄のあんな優しい顔……あたしじゃさせられない……。
こ、こうなったら今日はヤケ食いしてやるんだから。祥兄、責任持って奢ってよね!」
早口に俺とまりやにそれだけ言うと、これ以上泣き顔を見られたくなかったのか、公園から走り去って行く。
もっと上手い言い方があったのかもしれない。けど、この気持ちに嘘はつけなかった。
俺が大事にしてるものも、俺が守りたいものも、ずっと一緒にいたいと思うのも、全部あいつに向かってる気持ちだから。
この想いが少しでも届いてくれるなら、こんな苦労はしないんだけどな————。
ふぅっと小さく息を吐き、一部始終を見ていたまりやに向き直る。
下を向いていて、何を考えているのか読み取れない。
————パチパチパチパチ。
「ヒロってばカッコイイ〜! あんなにハッキリ告白されたら、誰だってあきらめるしかないよなぁ。
有紗ももうちょっと上手くやればよかったのに、不器用な奴……」
思い通りにならなくて、つまらなそうな顔をして拍手をする祥吾は、悪戯を考える子供のようにしか見えない。
何を考えて、有紗を連れてきたのか知らないけど、人の気持ちを何だと思ってんだよ。
「祥吾……お前、悪いことしたっていう気持ちはないのか。謝ることもできないなんてガキ以下だな」
「ははっ。ガキねぇ……。さっきちゃんと謝ったじゃん。
もうちょっと面白くなるの期待してたのに残念。
まぁ、我が妹ながら少しは頑張ったからいいことにするか。じゃ、可愛い妹が心配だから、お兄ちゃんは帰りますよ。またね、2人とも」
まったく反省の色も見せずに、邪魔するだけ邪魔して平然とした態度で、祥吾は有紗を追いかけるように帰って行った。