EGOIST
『はい。 柚に送ったよ』
多恵は、スマホの画面をこちらに向けて言った。
『ありがとう』
『涼くん…… 柚狙いなの?』
不安そうな顔を見せるから、思わず笑ってしまった。
『昔の知り合いなんだよね。 だから久々に話したくて』
もうあれなら9年近く経つだろうか。
柚が姿を消してから……
『あ、柚だ!』
と、多恵が声を上げる。
そんな多恵の視線の先を追った。
『あの、涼くんが探してるって聞いて……』
真紅に隠れるようにして、恐る恐る俺を見る柚。
気の小さい所は変わってないなぁ……
俺は苦笑しながら膝を曲げ、目線の高さを柚に合わせる。
『おかえり、柚』
そっと柚の頭を撫でてみる。
一瞬、放心状態だった柚が、何かに気付いたように目を丸くし……
そして、一粒の涙を零した。
『りょ……ちゃん……?』
可愛い可愛い柚。
ようやく思い出してくれたね。
『夢野涼だよ。 思い出した?』
『涼ちゃん……? え? 何でホスト?』
まだ混乱してるんだろう。
少し声が震えてる。
『ちょっと色々とね』
やっぱバツが悪いな。
普通に再会したかったのに。
『柚、涼くんと知り合いなの?』
と、多恵が柚の体を揺する。
『あ、うん! あのね……』
俺と柚は、幼い頃に住んでたマンションのお隣りさん。
いわゆる幼なじみだった。
『でも私、小学校の時に引っ越しちゃったから』
『それ以来だよな、会うのは』
『うん……』
7歳の時、柚の方が突然引っ越す事になって……
俺達はそれっきり。
『私、今あのマンションに戻ってきたんだよ! 涼ちゃんは、まだお隣りに?』
『こっちも事情あって、今は別の所に住んでんだ…… ごめんな?』
俺は笑顔を作り、柚の頭に触れる。
本当は離れたくなかったけど、仕方なかった。
『だから偶然会えてよかったよ』
『でも何で昨日、お店で言ってくれなかったの?』
『そりゃ高校生だってバレちゃヤバいしさ』
それに、あの場で柚に気づかれるのはマズかった。
他の奴に気づかれ、弱味になるのも嫌だし、目をつけられるのも避けたかった。
だけど結局、真紅に目をつけられたけどな……
『めちゃくちゃ怒るんだよね、凍司先輩が』
『凍司……先輩?』
柚の復唱にギョッとした。
しまった。
何で思わず凍司先輩の名が……!
『俺、知らないかんね』
呆れたように言い放つ真紅。
『あ、わかったぁ!! 司くんの事でしょ』
自信満々に多恵が手を挙げる。
『じゃあ司くんも高校生なの?』
『っんなわけないじゃん!!』
明らかに動揺が隠せていない。
自分でも無理矢理すぎて悲しくなるよ。
『涼ちゃん、嘘ついたら駄目だよ?』
『う……』
『涼ちゃん!?』
『し、真紅〜……』
もう限界だと、真紅に助けを求める。
『ったく…… 本名は南凍司(ミナミ トウジ)。 ここで副会長やってる1個上の先輩だよ』
『ちょっ、そこまで言うなよ!』
『どうせ怒られんだしね、涼が』
真紅はベッと舌を出し、悪びれもなく笑う。
こいつ…… 他人事だと思って……