EGOIST
《―3番線ドアが閉まります―》

聞きなれたアナウンスに、少しの焦り。

だけど今日はぎりぎり乗れるから大丈夫。

閉まりかけた扉に足をかける。

その時だった。

『いッ……やぁぁ―!!』

最近聞き慣れたあの声が響いたのは……

柚だ。

柚の叫びも虚しく、電車の扉は空気を抜くような音を立てて閉まる。


ああ、今日も行ってしまったか。

ガックリと肩を落とす柚の姿に思わず笑いが混み上がる。

『柚、最高~』

『し、真紅!』

『おはよ。 お互い毎日、大変だな』

柚は恥ずかしそうに頬を赤らめて頷いた。

『真紅も寝坊?』

『「も」って事は柚は寝坊なんだ。 俺は弟の送り迎えしてるから、どうしてもね』

早くしろと急かしても相手が子供だ。
どうも上手くいかない。

毎朝の課題だな。

でも今日は乗れたんだけどね。
柚さえ来なければ……

『ごめんね? 寝坊なんて言って……』

『いやいや、寝坊もあるし! やっぱ夜の仕事はキツいわぁ』

こんなに小さいのに、一丁前に気なんか使ってるよ。

『やっぱ朝帰るんだよね、あーゆう仕事って』

こういう困ったような顔も、嫌いじゃないな……
もっと見たくなる。

『0時までの契約だから2時には家にいるよ。 涼は遅いらしいけど』

『涼ちゃん……体壊しちゃわないかな』

柚は暗い表情をして、少し俯く。

涼の名前を出したのは、柚の反応を見るためだ。

涼は恐らく柚を好きだろう。
だけど柚はどうだ?

恋愛に発展する手前かな。

『心配しなくても俺がついてるから。 無理しないよう見張ってやるよ』

『うん! 真紅も、絶対無理しないでね?』

『まぁ、俺の場合は疲れても柚がキスしてくれたら治るし!』

ちょっと意地悪を交えて笑顔を見せる。
予想通りに柚は顔を真っ赤にして声を失った。

『今から試してみよっか?』

『い、いいですッ!!』

真っ赤。
文字通り林檎のような赤さだ。

『柚さんは可愛いでちゅね〜』

『もう! 赤ちゃん扱いしないで!』

『いいじゃん。 可愛いんだもん』

涼には悪いけどね。
大事な幼馴染みちゃんは、俺が手に入れちゃうよ……
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