EGOIST
『あげる』

一限目が終わる頃に戻ってきた涼は、紙袋をバサッと俺の席に投げ捨てていった。

何だあいつ。

不思議に思いながらも紙袋の中身を取り出す。
すると、中にはジャージと飴玉数個。

『……柚か』

それで涼のあの態度ってわけね。

さっきの多恵ちゃんからのメールもこれか。

男の嫉妬は怖いな……



放課後。

女子側の校門へ回り込み、柚を待ち伏せする。

待つのにも飽きた頃、ようやく見慣れた柚の姿が見えた。

『ゆ……』

そう声を上げようとした時だった。

『真紅くんの名前出してからなんだよね~。 涼くんが機嫌悪くなったの』

と、多恵ちゃんが話し始めた。

『まさか涼ちゃん、真紅と仲が悪いのかも』

続いて柚。

『まさか。 仲良く一緒に働いてたじゃん!』

美里ちゃんまでいる。

……完璧に出るタイミングを失ったな……


『でも涼ちゃんは、嫌いな人と仕事したり出来ないと思う』

『そういえば、柚は涼くんと幼なじみだもんね! って事は、やっぱ多恵が嫌われてるんだぁ~!!』

ついに泣き出してしまった多恵ちゃん。


つまりだ。
柚に頼まれてジャージを返しに来た多恵ちゃんに、涼が冷たく当たったって事か?

完璧にヤキモチだよなぁ……それ。

かと言って柚に教えたくはないし。


……仕方ない。

『あ……あー! 柚!』

俺は偶然を装って3人の前にぴょんっと飛び出した。

『ジャージと飴玉、ありがとなー! ちょっと体育には間に合わなかったけど!』

少しテンションが高めなのは、嘘に慣れていないからだ。
すぐにバレそうで怖い。

『ちょうど涼と喧嘩してたとこでよー、無言で投げられたわ!』

まぁ、半分嘘じゃないけどな。

『そうなんだぁ…… よかったぁ! 多恵が嫌われてるんじゃなくて!』

安堵の笑みを漏らす柚に、ほっと一息ついた。

やっぱ可愛いよなぁ……
顔だけじゃなく、雰囲気っていうのかな?


『可愛い柚に1つ忠告』

『え……?』

俺は柚の頭を抱き寄せ、耳元で囁く。

『涼の前で、俺の名前出さない方がいいよ?』

「ヤキモチやくから」とは、言えないけどね?

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