EGOIST
いつもの朝。
いつもの駅。

でも最近、いつもと少し違う。

『おはよ、柚』

この小さな女の子が隣にいる事だ。

『今日は余裕の登校だね』

うちわをパタパタと動かす姿に思わず笑みが漏れる。

『それ、どっかで貰ったの?』

『うん。 コンビニに寄ったらくれたの』

得意気な笑顔を見せる柚。

うちわには最近オープンしたばかりの植物園の写真が……

まんまと宣伝に使われてんな。

『真紅は、何の花が好き?』

『ん? 俺?』

『うん。 やっぱ薔薇が好きなのかなって』

チラッと胸元に視線を移す柚。

なるほど。
タトゥーが薔薇だからか。

『まぁ、好きっちゃ好きだけど』

戒めとして、思い浮かんだのが薔薇だった。
だから心の奥底では、恐ろしい印象の花なんだろう。

『俺は柚のが好きかな?』

身を屈め、顔を覗き込む。

『す、すぐからかうんだもん……』

林檎のように真っ赤になる姿に、妙な満足感があった。


柚を好きかと聞かれたら、好きだと素直に思う。
……恋愛感情ではないのかも知れないけど。

『そんなに真っ赤になっちゃって。 狼さんに食べられちゃうよ?』

それでも、もし誰かに恋をするなら。
それは、柚みたいな女の子としたいんだ。

柚みたいな、心の綺麗な女の子と……

< 26 / 75 >

この作品をシェア

pagetop