EGOIST
『お疲れ様でーす!』

土曜日の深夜。
今日の俺は上機嫌さ。

『真紅が上機嫌なのって月に一回だな』

目の前でニコニコ立つ俺に冷ややかな視線を向ける凍司。

『そっ! 給料日だけ!』

何の悪びれもなく言う俺に呆れたんだろう。
溜め息と共に給料が手渡される。

『真紅。 契約の事だけど、高校生には負担が大きすぎると思うんだ』

ついでにと言わんばかりに説得にかかる凍司。

『嫌だね。 どうせ涼に脅されたんでしょ?』

『お前ら……』

ベーっと舌を出して言い放つ。
いつもなら呆れて立ち去っていく。

そう思ってたのに……

ガッと胸倉を掴んで睨まれた。

『第一、あの女子高生にいくら払えるんだ!? お前を独占したい客ならいくらでもいる!』

『……凍司』

『高校生の小遣いで買えるほど安いのか、お前は!?』

辛そうに話す凍司の手は微かに震えていた。
……力入れすぎだよ。

『安くないよ、俺は』

『そうだろ!?』

『どっかのオバサンには手が出せないだろうね? でも柚ならジュースより安いよ』

一瞬にして胸倉を掴む手が緩む。

『……それは……恋愛か?』

恋愛……ではないと思う。
ただ柚になら独占されても良いと思ったのは確かだ。

『興味があるんだ』

『だったら彼女じゃなくても!』

妙にムキになる凍司に違和感を感じた。
誰と契約しても自由だと言ったくせに。

涼に相当言われたな……

『凍司。 俺、凍司が俺を脅したから働いてるわけじゃないよ?』

最初は確かにそうだった。

【掛井真紅…… このままだと留年だな】

副会長をやってた凍司から出された交換条件。

【店の手伝いをしてくれるなら、多少の遅刻は目を潰ろう】

ホストとして働くなら校長に掛け合ってくれると言った。

最初はその理由しか無かった。

『凍司がいて涼がいて…… 楽しいからココにいるんだ』

『真紅……』

どこの誰かも分からない女に独占されて飼われるのはごめんだ。

『俺は、この店を一緒に大事にしてくれる女としか契約しない』

柚なら……
柚なら、凍司と涼も俺と同じように大切にしてくれると思ったんだ……
< 42 / 75 >

この作品をシェア

pagetop