EGOIST
降車後、10分。

『チーン……』

ようやく涼が口を開いた。

『あはは! 自分でチーンって言ってる~』

いつもの涼もいいけど、今日は可愛くって可笑しい。

『次は何乗ろっか! バイキング?』

『いや、穏やかなやつで』

『え~、ここ絶叫が有名なのに』

今日、制覇したかったのにぃ……

『多恵、少し休憩しようよ。 観覧車とか綺麗だよ?』

と、美里がクスクスと笑いながら言う。

『凍司くんもどうかな?』

さすが美里。
気配りがきちんと出来てる。

それに比べて私ってば……

『ごめんね、涼…… 多恵が好きなの涼にも体験してほしくて』

『そっか、その気持ちはありがたいけど』

少しバツの悪そうな笑顔。
いつも涼はこうやって笑う。

『真紅と合流するか? あいつ絶叫系、大好きだから』

凍司くんまで。

『ううん。 多恵、絶叫乗れなくていい』

『え?』

『涼の乗れるのでいい』

自分のこういう所が駄目だって、いつも解ってるんだ。

だけどこうして暴走してしまう。

解ってるんだけど……

『じゃあ、お化け屋敷はどう? 俺、そういう絶叫はいけるよ』

『……うん! 行きたい!!』

柚みたいに素直に。
美里みたいに大人に。

理想はほど遠いなぁ……
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