EGOIST
帰り道……

いつもの時間にいつもの電車。
今日も真紅に会ってしまうかも知れない。

そう思うと心臓が破れそうだ。


『よし!! 忘れよう!』

こうゆう事は忘れるに限る!

小さくガッツポーズをして前に進む。

『なーにを忘れるって?』

そんな私の背中に重くのしかかるモノが……
こんな事する人は一人だけ。

『し……真紅?』

『当ったり~』

やっぱり真紅だった。

『それより忘れるって何を?』

『そりゃキ………いえ、ごほっごほっ』

その場の流れで言ってしまいそうになる。

ヤバいヤバい。
忘れるって誓ったばかりなのに

『わかった。 この間のキスでしょ』

真紅はずばり当てると意地悪な笑みを浮かべる。

何でそんなに鋭いの~!?

『そんなに忘れたい?』

『別にそんなわけじゃないけど…… ただ気まずくなるの嫌で』

『ふーん……』

あ、
また少し不機嫌そう。

『ごめんね? 私、不器用だから……』

小さい頃に、涼ちゃんとしたキスと同じものだと思えば軽いんだけど。
それはどうしても出来なかった……

『真紅はホストだし…… 慣れてるだろうけど、私は……』

そう言いかけた時、真紅の大きな手が額を押した。
少し体のバランスが崩れて倒れそうになる。

『その純粋なとこ。 そこが気に入ったの』

『え?』

『仕事柄ね、人間の汚い所ばかりで。 正直、人は好きじゃない』

少し寂しそうに笑う真紅につい見入ってしまう。

『でも柚は綺麗で、好きだよ?』

『え……?』

『だからキスした』

真っ直ぐな声。
強い視線。

怖いほど綺麗で、視線を合わす事は出来なかった。
< 62 / 75 >

この作品をシェア

pagetop