EGOIST

TOUJI

何故、叶いもしない恋に挑むのか。
自分を傷付ける事に恐れはないのか。

『ねぇ~、一緒に海に行こうよ~』

彼女を見る度にそう思う。

『一生のお願い! ね?』

あの3人の女子に出会ってからというもの、下校時刻になると偶然を装って現れる彼女。

名前は多恵と言っていた。

『だから真紅達も行くならいいけど、男一人は勘弁してよ』

涼は少し困ったように笑うと、こちらに視線を送る。

『それに凍司先輩、受験だよね?』

どうやら断りたいみたいだが……

『それはいいが、真紅が無理じゃないか?』

俺は受験には切羽詰まっていない。

『あー…… 確かに。 真紅に聞いてみてよ』

『え~! 多恵から聞くの~?』

『多恵様お願いね~』

涼はそう言うと、逃げるように去っていく。



『涼、いっつもあんな感じ』

涼の姿が完全に見えなくなったと同時、多恵は口を開く。

『多恵の事、嫌いかな』

別に嫌ってるわけじゃないだろう。
だけど、好きでもない。

期待を持たせないようにするのは、涼なりの優しさだろう。

恐らく涼は……

『君の友達が好きなんじゃないか?』

『……柚?』

……なんだ。
知ってるんじゃないか。

『でも負けないよ。 だって柚、涼を男として見てないもん』

強い視線を向けられ、一瞬怯む。

まるで少し前の自分を見ているようで、どきっとした。

『強いんだな』

傷付く前に救ってやりたいなど、エゴに過ぎないのだろうか……
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