EGOIST
もう一年も経つ。
彼女がいなくなってから。

人を好きになるって事を教えてくれた唯一の人。

でも君にとって俺は、唯一ではなかったのか……



『おーい、凍司~!』

聞きなれた声。

『昼寝してんなよ、副会長様がよ~』

遠慮なく叩かれる肩。

『……真紅か……』

『資料作りに追われてるからって、呼んだのそっちでしょ』

あまりに陽気が良く、ついうたた寝してしまったようだ。

重いまぶたを擦り、机に散らばったプリントに視線を落とす。

『俺、あんま長時間いれないよ?』

呆れたようにプリントを纏めると、真紅は向かいに座った。

『悪いな、保育園があるのに』

『本当だよー』

この金髪で乱れた服装をする男。
奴はこう見えて、実は面倒見の良い長男気質の男だ。

『この間なんか、お迎えがちょっと遅れただけで豪華ディナーを要求されたんだぜ』

それもそのはず。
奴を頭として、下に5人も弟がいるのだ。

嫌でも面倒見が良くなるだろう。

『多恵ちゃんから聞いたか? 海の事』

手際よくホッチキスを扱う真紅に尋ねる。

『聞いたけど、無理っしょ』

『だよな』

『弟たち置いていけねーし』

少し寂しそうな表情をしたのは気のせいではないはず。

『あの馬鹿親達がなぁ』

『まだ海外か?』

『そうそう! たまにしか帰んないのよ』

ははっと苦笑する。
きっと遊びたいだろうに……
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