糖度∞%の愛【改訂版】
じりじりと距離を縮めてくる五月女と、なんとか距離を取る。けれどもうこれ以上下がれなかった。スーツ同士が微かに触れ合うくらいの近い距離。まつ毛の一本一本が数えられるくらいの距離。そんな私の近くで五月女はにっこり笑う。
「沙織さんの全部が好きです」
目の前の男の“好きの理由”は、本人が前もって宣言した通り、とても“ありきたり”なものだった。
“どこが好き?”と聞かれて“全部”と答えるのは、その人の好きなところが思いつかないからだと思っていた。けれど、どうやら私の考えは間違っていたらしい。
「仕事を責任もって最後までやり通す、当たり前のことをちゃんとできるところが好きです」
「日本酒片手にスルメかじってる、オヤジみたいなところも俺には可愛く思えます」
「二日酔いの日に、栄養剤を朝一でデスクで一気飲みするのも豪快でイイです」
「それから……」
「いいっ!わかったから!それ以上はストップ!」
まだまだ続きそうな“全部”の“理由たち”を途中で遮った。
なんで一つ目以外は欠点ばかりなんだ!とつっこむ気も起きない。
そんなわたしですら嫌じゃないんだと、コイツの瞳から、声から、すごく伝わってきたから。
それに気づかないほど私は鈍くないし、感情に疎いわけじゃない。