糖度∞%の愛【改訂版】
私の視線の先に気付いた真帆が、ため息まじりに呟く。


「……なんなんだかね、アレは……」


その言葉に、返事さえできない。
今すぐ彼方のもとに行って、あの女の子の腕を振り払いたかった。“彼方に触らないで”と怒鳴りたかった。そう言えたらどんなにいいだろう。でも私にはそうすることが出来ない。

そうする資格も権利もあるというのに、こうやって拳を握って堪えてしまうのだ。
ただ静かに、ぽたぽたとテーブルに落ちる涙を、滲む視界でとらえていた。


「アンタもさ、そうやって泣くくらいなら、意地張ってないでちゃんと聞けばいいじゃない」


綺麗にアイロンのかけられた、白いハンカチが目元に添えられた。「ありがとう」と小さく呟いてそれを素直に受け取る。

でも、こんな風に素直に聞けない。

それで、“心変わりした”と彼方から告げられたら? そうやって私から離れていかれたら、もう立ち直れない。
世界がきっと色あせて見えてしまう。そうやって落ち込みながらも、バカみたいに彼方を好きでい続けるに違いない。
だからこそ、聞けない。こんな風にうじうじしてるのなんて、私のキャラじゃない。
なのに、いつもみたいにふっきれないのだ。


「信じてやりなって言いたいけど、アレ見せられちゃ正直庇う気も失くすわ」


フンと鼻息を鳴らして頬杖をつく真帆。ハンカチで目元をおさえながら見える真帆は、綺麗な顔を見事にゆがめていた。


「普段の態度を見てると、“沙織大好きー”って分かり易いくらい分かるのに、なんであんなこと大人しくさせてるんだかねぇ」

「うん」

「こんなことされても沙織一筋っていう自信の表れなのか、それとも逆なのか」


神妙な顔つきで考え込む真帆。“その逆”を想像したくなくて、返事が出来ない。

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