糖度∞%の愛【改訂版】
糖度50%


「沙織さん」

「……何でしょう?」


自分のデスクに座りながら手を動かし続けて、パソコンから目を離さずに答える。お昼休憩も終わったし、今は仕事中だから、当たり前だ。今は仕事をする時間。明らかに仕事じゃない目的で呼ばれていると分かっているのに、手を止める理由はない。


「沙織さん」

「だから、何でしょうか?」


返事をしているというのに、彼方は私を何度も呼んでくる。
だから再び「沙織さん」と呼ばれて、私はしぶしぶパソコンから視線を外した。視線の先には、ムスッとしながら私を見下ろす彼方の姿。
その手には、一応書類らしきものを持っている。でも彼方はもうこの部署の人間じゃない。だからこれは、私に渡す書類じゃないことは確実だ。


「部長ならあちらにいらっしゃいます」


違う部からの書類を渡すべき人の方を手で示す。彼方はつい最近までこの部署にいたのだから、部長の席を知らないはずがない。それを分かっていながらやったのは、彼方の言葉を聞きたくなかったから。聞くのが怖かったから。年上なのに彼方の言い分を聞いてあげられないでいる、自分の弱さが嫌になる。

こんな誰でも分かるような言外の拒絶に、周りが息をのんだのが聞こえた。けれど、それには気づかないふり。私は再び視線を画面へ戻して、キーボードに指を走らせる。
何でもないようなふりでキーを叩くけれど、ミスタッチばかりだ。それを悟られないように、打ち直してはまた打ってを繰り返す。
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