糖度∞%の愛【改訂版】
そもそもの発端は、沙織の嫌がらせを止めるように、コイツに釘を刺した時に起こった。
もう二度と沙織に手を出すな、という俺に対して返ってきた言葉は“じゃあ私と付き合って”という、あり得ない言葉。
その場で溜息をついて頭を抱えた。どうしてこうも、話の通じない女が多いのだろう。
好きな相手を傷つける女と、付き合う気になんてならないと言わなくても分かるはずなのに。
そんなバカげた条件のめないと、ため息をついてその場を後にしようとした。でも引き留めるように縋り付いてくる女の腕。
それを当たり前のように振り払った瞬間、「きゃっ」と声がした。
視線をやれば、そこには足首を押さえてうずくまる女。俺が振り払った反動で、転んで足をくじいたらしい。
一瞬演技かと疑った。
けれど、彼女の足首は赤く腫れていて、演技でないことを知ったと同時に、厄介なことになったと思った。
案の定彼女は『足が治るまでの間、お昼を一緒にとってください』という変な条件を出してきた。
お昼休憩は、部署の違う沙織と唯一会える時間だ。それがあるから一日仕事を頑張れるというのに、それを奪われちゃ困る。
断ろうとした俺を見越したかのように『まさか断らないですよね? こうなったの、五月女さんのせいですもんね?』とたたみかけてきたのだ。
それでも是と言えない俺を追い詰めるかのように、偶然その場に居合わせた人に『そう思いません?』と話しを振り始めてしまったから、否とは言えなかった。
常識がなくて、空気が読めなくて、性格の悪い女は相当厄介だ、と痛感した。
それから沙織が離れていくのは、あっという間だった。
説明すらさせてもらえず、正直どうしていいのかお手上げ状態。
頼みの綱である藤城さんも、今回ばかりは手を貸してくれることもしなかった。
当たり前だ。藤城さんの中で、俺は沙織を傷つける二股男のレッテルを貼られている。面と向かってそう言われて、怒りよりも、沙織もそう思っているのだと思ったら情けなくなった。