糖度∞%の愛【改訂版】
二人だどこにいるのか分かるまで、その場でじっとしていた方がいいって頭では分かっている。
でもじっとなんてしていられなかった。こうしている間にも沙織は傷ついているのだから。
『携帯にあの女が出たのは?』
「携帯を喫茶店のテーブルに置いて席を外した俺の失態です。喫茶店じゃシャワーなんて浴びれません」
『それを証明できる証拠はあるの?』
「レシートがあります。なんならお店に確認してもらっても構いません。結構言い合っていたので店員も覚えているはずですから」
なるべく丁寧に言葉を返しながらも、内心はすごく焦っていた。
早く沙織のもとに行きたくて。傷ついているであろう彼女を、いますぐに抱きしめたくて仕方がなかった。
人一倍強がるのが得意な彼女。でもその殻をやぶれば、中には打たれ弱くて可愛い彼女がいる。
そんな素の彼女に、やっと触れるようになれたんだ。やっと彼女のすべてを教えて貰えたような気がしていたんだ。
なのに、こんなことで彼女を手放したくなんてない。こんなことで壊れる関係じゃなかったはずだ。
俺の言葉の後、しばらくの沈黙が降りる。
そしてただ一言、『……会社よ』そう言って、俺の返事を待つことなく電話は一方的に切られた。
タイミングがいいことに、俺が今歩いていた方角は会社の方だった。今から全力で走れば10分かからないでたどり着くだろう。
「ありがとうございます」
口にした心からの感謝の言葉は、藤城さんには届くことはない。それでも口にせずにはいられなかった。伝えきれないほどの感謝でいっぱいだった。
―― まっすぐ向かうのは、君のもと。
ごめんなさい。
いくらでも謝るから、ただ抱きしめさせて。 ――