糖度∞%の愛【改訂版】
糖度70%


小刻みに震える手に持つ携帯を、ぼんやり見つめる。
電池パックのとれたそれを、直す気力すら湧いてこない。ただ無心でそれを眺めていた。
さっき少しだけ席を外していた真帆も、戻ってきてからはただ傍にいてくれている。

何も言うことなく、何も聞かないで、ただただ傍にいてくれる。

それが何よりも嬉しくて、「ありがとう」と、前触れもなくポツリと呟く。そんな私の言葉に、「なにが?」と照れ隠しにとぼけてくれる真帆が好きだ。

真帆が今ここにいてくれてよかったと、心から思う。
真帆がいてくれるから、泣けなくても取り乱すことなくいられる。

心の中の黒い靄を吐き出すかのように、深いため息を一つ吐く。そして天井の安っぽい蛍光灯を見つめた。

その瞬間、くらっと一瞬目の前が暗くなる。

瞬きをせずにぐっと上を見続ければ、視界は開けて蛍光灯が見えた。
このまままばたきせずに見上げ続けていれば、涙は出てくるだろうか。そうしてみたけれど、ただ目が乾くだけで全然涙は出てこない。

こんな方法で泣いたって、意味はないって分かっているけど。涙まで私に似て素直じゃないらしい。
そう思いたくなるほど、涙は全く出てこない。


ちがう、こんなこと考えてる場合じゃない。
こうやって、あたまのなかが訳の分からない思考になり始めてるのは、低血糖かもしれないってことだ。
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