糖度∞%の愛【改訂版】
そんな真帆によって呼ばれた彼方は、肩で息をしていた。
呼吸も乱れて、髪も整ってない。ネクタイに至っては、ほどいて胸ポケットにつっこんであったものが、かろうじてぶら下がっているという、何ともだらしない状態だ。
そのボロボロ……というか必死ともいえる姿に、一瞬呆気にとられる。
けれど私はすぐに、彼方から視線を外して真帆に向き合った。
「真帆、早く食べに行こう」
まるで彼方の存在すらなかったかのように、そう口にした私に、真帆は呆れたように溜息をついた。視界の隅で彼方は、グシャグシャと髪をかき回している。
イラつきたいのは私の方だ。
急に知らない女と、彼氏が堂々と腕を組んでいた。そしていくら待ってもその弁解がない。
確かに、最近避けていたのは私の方だ。でも強引に説明しようとすれば出来たはずなのに。
それをしなかったのは、他の誰でもない彼方だ。
さっきも電話をしたのに、出たのはあの子だった。
これって浮気の決定的な証拠じゃない?
私が匙を投げるのも、イラつくのも、当然だろう。
何事もなかったかのように、彼方の脇を通り抜けようとする。でもやっぱり彼方はすんなりと通らせてはくれなかった。
すれ違い様に左手を掴まれる。
痛いくらいに、強く。