糖度∞%の愛【改訂版】
普段は見ることのできない、彼方のつむじ。それを見ていると、そのつむじめがけて拳を振り落したくなる。
思わず拳を握りしめた。それを見逃さない真帆は、ジェスチャーで“イケイケ!”とばかりにパンチをしている。
この喧嘩とも言えない、でもすれ違っている不思議な冷戦状態を止めるのは、やっぱり私も少しは素直にならなきゃいけないんだろう。
なんて言ったって、彼方が説明しようとしたときに避けたという負い目がある。それに、とっくに私はもう彼方を許しているんだから。
だから私は素直に、真帆のジェスチャーに従った。
ちゃんと握りしめた拳は開いて、手のひらを彼方のつむじめがけて勢いよく振り落す。
小気味イイ音が個室に響き渡った。
瞬間に耐え切れないとばかりに笑い出した真帆。
バッと顔を上げた彼方は、笑えるくらいの間抜け顔だった。やっと視線がちゃんと混ざり合う。
「なっ、今、なんでっ」
この状況で叩かれるとは想像もしていなかったのだろう。彼方の言葉はまとまりがなくて、ただすごく驚いているんだということだけは伝わった。
だけど私はそんな彼方に構わず、低い声で彼方に詰め寄る。
「“ゴメンナサイ”は?」
「へ?」と呆ける彼方に、もう一度同じ言葉をゆっくりと繰り返す。
状況をまだ呑みこめていないのだろう、それでも彼方は素直に「ご、ごめんなさい」と口にした。だから私はやっと「許す」と言うことができたのだ。
だってとっくに許したくて仕方なかった。
その機会を自分で失くしていると分かっていたけれど。それでもそれを素直に言えるほど大人じゃなくて。
年上だからこそ、かっこつけたくて、意地を張ってしまった。
とても素直、とは言えない偉そうな言い方になってしまったけれど仕方ない。これが私にできる最大限の譲歩だ。