ゴッドネス・ティア

「ただいまー」



ガチャリ、と玄関の開く音がしたかと思ったと同時に、覇気のない若い男性の声が響いた。



「あらあなた、お帰りなさい」



それを見ると、マリンは穏やかに微笑み、男が肩に抱えている……弓なのだろうか、それを受け取りに行く。



「あ、ケリーさんｯ！
お邪魔してます！」


「ヒサノｯ、声大きいよ！」



マリンの夫であり、今目の前ですやすやと眠りこけている赤ちゃん…アランの父親であるケリーが帰って来たことに気付き、ヒサノは持ち前の明るい笑顔で手を振った。


一つのことしか考えられないのだろうか、すっかりアランが寝ていることを忘れて大きな声を出すヒサノにシッ！とレオナはヒサノの口を塞ぐ。



「やぁ、ヒサノちゃんにレオナ君。
また来てくれたのかい？アランも喜ぶよ」



そんな二人に優しそうに微笑むケリーに二人はホッと胸を撫で下ろした。


そして、なんとなくアランを振り返り、ケリーと見比べてみる。


よくみると、アランは父親似のようだ。


少ないがしっかりと生えているアランの茶色い髪に、すっと整った鼻。


これは将来かなりの美形になるのではないかと思う程のその顔立ちは、父親によく似ていた。



「僕はねぇ、お母さん似なんだって。
そうなのかな？」


「あんたのことなんて知らないわよ。
似てるんじゃない？髪色が」



ヒサノはレオナのにこやかな発言をザックリと跳ね返し、今度は母親マリンに笑みを向けた。



「そろそろお邪魔だし、帰ります」


「あら、まだいてくれていいのよ？」


「いえ、…アラン起こしちゃいそうなんで」


「…そう、じゃあまたいらっしゃい」


「…………はい！！」



マリンのその穏やかな笑みを見て、ヒサノは嬉しそうに顔を綻ばせた。

まだ名残惜しそうなレオナを引きずって、玄関を出る。



「お邪魔しました〜！」


「お、お邪魔しました〜」



そう笑顔で去っていく幼い二人に手を振り、夫婦は穏やかな笑みを浮かべながら二人を見送った。