ゴッドネス・ティア
「あらぁ〜こんなところで何してるの二人ともー」



ふと、背後からゆっくりと明るい声が、…聞き覚えのある声がした。

毎日毎日聞いている、大好きな大好きなこの胸に染み入るような穏やかな声。

そして……








自分と同じ、赤い髪と目。











「お母さんっ！」



今まで以上に明るく顔を輝かせ、声の主を振り返った。

買い物帰りなのか、両手に様々な旬の野菜が入った袋を提げているその小柄な女性は、お気に入りの清潔感漂うシンプルな白いエプロンを身につけ、いつもの穏やかな笑みを見せていた。



「もう、レオナったらまた泣いてたの？」


「…えっ！？」



レオナの頬に残る涙の跡を見て、レオナの母……アメリスはクスクスとまるで少女のように微笑む。

母に泣いていたということがバレてしまったレオナは恥ずかしそうに頬を赤く染めて、母を見上げた。



「じゃあ私はおばさんが心配するから、また明日ね」



いつもながらの仲良し親子をしばらく眺めていたヒサノは、空気を読んだのかそうではないのか、後ろからレオナの髪をグシャグシャと撫でて笑い、そう言った。

その白い歯を見せて口端を上げたような豪快な笑みには、少女らしさというものはないが、どこかかわいらしいものがある。



「うん、バイバーイ！また明日ねっ！」



名残惜しむわけでもなく、ヒサノはさっさと踵を返して歩みを進め、レオナがヒサノに大きく手を振るときには背中を向けて忙しげに走り出していた。

きっと家の手伝いでもするのだろう。


ヒサノの家はパン屋を営んでいる。

ヒサノには両親がいない。

おばさんというのも、ただ亡くなった両親と仲のよかった血の繋がりもない人だ。


お父さんやお母さんがいなくて、寂しくはないのだろうか、とレオナはいつも不思議に思っていたが、彼女は両親の顔も覚えていないのだと言う。

いつもケロッとしているし、ヒサノは強いから大丈夫だろうと安心して最近では気にしないことにしている。





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