ゴッドネス・ティア
母は、歌うたびに笑うけれど、


その歌の旋律には、どこか悲しさがあった。




――嬉しくて

――楽しくて

――なんて幸せ…






けれど、






――悲しくて

――苦しくて

――なんて哀れ……







母は歌の最中、幸せそうな表情の中に、一瞬に悲しさが混じることがあった。


それは母自身気付いていないだろう、ほんの一瞬だけ。


きっと、レオナしか知らない。




「お母さんはなんでいつもその歌を歌うの?
題名聞いたって教えてくれないし…」


「あらあら…なに膨れっ面してるの〜?
かわいい顔が台なしよぉ」


「……………」



女である母にはわからないのだろうか。

まだまだ小さくてもレオナも一応一人の男。


かわいいと言われて嬉しいはずがない。




「…………まぁ……」



ムスッとレオナの顔が不機嫌そうになったのを見て、アメリスは困ったように眉を下げた。


レオナは一度本気腹を起てるとなかなか機嫌をなおすのが難しい。


そんな微妙な頑固は父クラウスに似たのか少し厄介である。


だが、アメリスは困ったように微笑むだけで、厄介などと感じたことはなかった。


プクッと脹れるレオナの手を引いて、また歌を歌い始める。



「 赤いお姫様には
 愛しい人がおりました

  愛しい人は美しく
 国を揺るがす罪人で

  愛しい人に口づけを
 白い罪人と旅立ちました―――――……










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